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生活保護の「扶養照会」は必要? 「親族に知られたくない」で申請せず、援助につながるケースも稀
2021年01月26日 10時18分

「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」。

厚生労働省は2020年12月、HPでこのような呼びかけを始めた。新型コロナウイルスの感染拡大が影を落とし、今後生活困窮者は増えていくとみられている。

そんな中、生活保護の利用にあたって「扶養照会」が大きなハードルとなっている。これは福祉事務所が生活保護を申請した人の親族に対し、援助できるかどうか問い合わせをおこなうもので、「家族に知られるのが嫌」と申請をためらうケースがおきている。

さらに、扶養照会によって実際の援助につながる事例はまれだという。

生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」が調査したところ、扶養照会から実際の扶養に結びついたのは足立区で7件(0.3%)、台東区は5件(0.4%)、荒川区とあきる野市は0件だった(いずれも2019年度)。

代表理事の稲葉剛さんは「少なくとも都心部では扶養照会は形骸化している。申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合のみに限るべきだ」と訴え、ネットで署名活動をおこなっている

「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」。

厚生労働省は2020年12月、HPでこのような呼びかけを始めた。新型コロナウイルスの感染拡大が影を落とし、今後生活困窮者は増えていくとみられている。

そんな中、生活保護の利用にあたって「扶養照会」が大きなハードルとなっている。これは福祉事務所が生活保護を申請した人の親族に対し、援助できるかどうか問い合わせをおこなうもので、「家族に知られるのが嫌」と申請をためらうケースがおきている。

さらに、扶養照会によって実際の援助につながる事例はまれだという。

生活困窮者を支援する一般社団法人「つくろい東京ファンド」が調査したところ、扶養照会から実際の扶養に結びついたのは足立区で7件(0.3%)、台東区は5件(0.4%)、荒川区とあきる野市は0件だった(いずれも2019年度)。

代表理事の稲葉剛さんは「少なくとも都心部では扶養照会は形骸化している。申請者が事前に承諾し、明らかに扶養が期待される場合のみに限るべきだ」と訴え、ネットで署名活動をおこなっている

●「今の姿を自分の娘に知られたくない」などの声

「つくろい東京ファンド」は2020年12月31日~2021年1月3日、生活困窮者向け相談会の参加者を対象に、アンケート調査をおこなった。165件の回答があり、生活保護利用者が37人(22.4%)、過去の利用者が22人(13.3%)、利用したことがない人が106人(64.2%)だった。

利用したことがない人に「生活保護を利用していない理由」を尋ねたところ、「家族に知られるのが嫌」が34.9%ともっとも多かった。

画像:つくろい東京ファンド 画像:つくろい東京ファンド

自由回答では「知られたらつきあいができなくなってしまう」「今の姿を自分の娘に知られたくない」「年取った両親をビックリさせたくない」などの声があった。

稲葉さんは「コロナ禍では若い世代の生活困窮が多くみられますが、もともと関係がよくなく実家を出て、首都圏で一人暮らしをしているケースが多い。そうした中で家族に連絡がいくのを嫌がるケースがみられる」と話す。

一部の福祉事務所では扶養照会が生活保護の申請を諦めさせるという「水際作戦」のツールとして使われているケースもあるという。稲葉さんは「現場的にも意味がないとわかりつつも、やらざるを得ないところがあるのではないか」とみている。

●扶養義務はどこまで?

そもそも、扶養義務はどこまであるのだろうか。生活保護申請の支援をおこなう太田伸二弁護士は「生活保護扶養義務の重さについて、民法は関係の近さに応じて違いを設けている」と説明する。

「民法877条1項は『直系血族及び兄弟姉妹は、互いの扶養をする義務がある』としています。直系血族とは親子や祖父母・孫のような関係のことです。

この場合は必ず扶養義務を負うことから、直系血族と兄弟姉妹は『絶対的扶養義務者』と呼ばれます。

また、夫婦についても、互いに協力し助け合う義務や婚姻費用(生活費)を負担し合う義務が民法に定められているため、やはり絶対的扶養義務者として扱われます」

これらの扶養義務者の中でもさらに、段階を分ける考え方があるという。

「夫婦間、親と未成熟の子の間は『生活保持義務関係』とされ、それ以外の場合は『生活扶助義務関係』とされています。『生活保持義務』については、自分と同程度の生活ができる程度まで援助する義務と考えられています。その点で強い義務だといえます。

それに対して『生活扶助義務』の場合は、自身の余力の範囲で援助することまでしか期待されないもので、『生活保持義務』と比較すると弱い義務だといえます」

では、それ以外の親族については、どうなるのだろうか。

「もう少し義務が課せられる場合が制限されます。民法877条2項は、3親等内の親族については、過去に多額の援助が行われたなど『特別の事情』がある場合には、家庭裁判所が扶養義務を負わせることができるとしています。

3親等内の親族というとおじ・おばと甥姪の関係などです。このような場合は「特別な事情」が無ければ扶養義務を負わないので『相対的扶養義務者』と呼ばれます」

太田弁護士によると、こうした扶養義務者の範囲は、諸外国に比べると極めて広いものであると指摘されているという。

●生活保護法と扶養義務との関係は?

一方で、生活保護法と扶養義務との関係は、また少し異なるようだ。

太田弁護士は「生活保護法は、扶養義務者による扶養を期待しつつも、保護を開始するための要件とはしていません。つまり、『扶養義務者に援助を求めた上でなければ保護を開始しない』というような対応は間違いだということです」と指摘する。

「生活保護法4条2項は『民法に定める扶養義務者の扶養(中略)は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする』としています。

生活保護法4条1項が、資産や能力などの活用を『要件として』としているのとは対照的で、扶養が要件ではないことは明らかです。

4条2項の優先してというのは、実際に経済的な援助がなされたら、その分を支給する保護費から減額するというようなことです」

厚労省も2008年、扶養が保護の要件であるかのように説明して保護の申請を諦めさせるようなことがあれば、申請権の侵害になるという通知を発している。

●太田弁護士「制度改正は必要」

今後の扶養調査のあり方について、太田弁護士は「厚労省が現時点でも調査をしなくてもよいとしている範囲については周知徹底する必要がある」と語る。

「扶養調査については、厚労省がすべきとされている範囲よりも広く行われている場合が多いと考えています。

厚労省は、(1)扶養義務者自身が保護受給者、社会福祉施設入所者あるいはそれらと同様の状態にある場合、(2)申請者の生活歴などから特別な事情があり明らかに援助ができないと考えられる場合、(3)DVを受けた母子など援助を求めることが自立を阻害すると認められる場合には、扶養調査をする必要がないとしています。

例えば(1)は長期入院患者、主たる生計維持者ではなく働いていない人、未成年者、おおむね70歳以上の高齢者、(2)は20年間音信不通の人などが想定されています」

しかし、実際には上記のような場合でも、扶養調査としての文書が送られている例があるという。

太田弁護士は「少なくとも、絶対的扶養義務者(夫婦・直系血族・兄弟姉妹)を超える親族は調査対象としない、調査をするとしても、当事者からの聞き取りや扶養義務者が住んでいる自治体への調査などを通じて『扶養可能性のある扶養義務者』の範囲を絞り込んでおこなう、などの制度改正は必要」と指摘した。

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