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蛇行運転、トラック前で急減速…「あおり行為」を威力業務妨害で立件できるのか?
2019年09月30日 10時05分

茨城県の常磐自動車道で起きた「あおり運転殴打」事件で、傷害などの疑いで逮捕された40代男性について、静岡県警が威力業務妨害の疑いでの立件を視野に入れて、捜査していると報じられている。

共同通信などによると、男性は今年6月、静岡県浜松市の新東名高速でも、蛇行運転や車線変更などを繰り返して、トラックの前に入って急に減速した。トラックが男性の車にぶつかって、男性と同乗していた女性が軽いケガを負ったという。

トラックの運転手は当時、運転業務中だったという。威力業務妨害であおり行為を立件するのはめずらしいということだ。和氣良浩弁護士に聞いた。

茨城県の常磐自動車道で起きた「あおり運転殴打」事件で、傷害などの疑いで逮捕された40代男性について、静岡県警が威力業務妨害の疑いでの立件を視野に入れて、捜査していると報じられている。

共同通信などによると、男性は今年6月、静岡県浜松市の新東名高速でも、蛇行運転や車線変更などを繰り返して、トラックの前に入って急に減速した。トラックが男性の車にぶつかって、男性と同乗していた女性が軽いケガを負ったという。

トラックの運転手は当時、運転業務中だったという。威力業務妨害であおり行為を立件するのはめずらしいということだ。和氣良浩弁護士に聞いた。

●業務中のトラックだったので適用できる

――威力業務妨害の適用は問題ないのか?

これまで警察は、「あおり行為」に対して、道路交通法の車間距離保持義務違反や、刑法の暴行罪を適用してきました。

また、死傷事案については、危険運転致死傷罪(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)を適用しています。

したがって、たしかにあおり行為を威力業務妨害罪で立件することは、めずらしいといえます。

ただし、今回、あおり行為の被害者であるトラックの運転手が運送業務中であったことからすれば、あおり行為によって、その業務を妨害したとして威力業務妨害罪で立件したとしても、特に問題があるとはいえません。

――そもそも威力業務妨害はどんな罪か?

威力業務妨害罪は刑法に定められており、「威力を用いて人の業務を妨害した者」に適用されます(同234条)。保護法益は、業務活動そのもので、職業としての経済活動がその典型例です。

トラックの運転手の業務は、トラックを走らせて荷物を運ぶことですから、あおり運転行為によって運送中のトラックを停止させることは業務の妨害にあたります。

また、「威力」とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいいますが、今回のように、トラックに対して蛇行運転や幅寄せ、車線変更などを繰り返したうえでトラックの前に入って、急に減速した行為は人の意思を制圧するに足りるものとして威力にあたります。

したがって、今回のケースで被疑者は、「威力を用いて人の業務を妨害した者」といえますので、威力業務妨害罪で立件することに問題はないわけです。

しかし、威力業務妨害罪の保護法益は業務活動そのものですので、あおり運転行為が人の生命・身体を危険にさらすことに着目して立件するわけではありません。また、一般のドライバーの運転行為は業務ではありませんから、仮に一般のドライバーが被害者だった場合には、威力業務妨害罪は適用できません。

●「早急な法整備が必要だ」

――あおり運転の法規制はどうすべきか?

危険な行為は、法律によって明確に禁止して、相当の刑罰を設けることによって、抑止力が高まります。

現行法には、あおり運転行為自体を禁止する法律はありません。また、刑罰の観点からみても、これまで適用されてきた車間距離保持義務違反の罰則は3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金にとどまります。

一方、危険運転致死傷罪が適用されれば、傷害の場合15年以下の懲役、死亡の場合1年以上 20年以下の懲役ですから、刑罰としては重いものとなります。しかし、危険運転致死傷罪は、対象行為が限定されており、傷害や死亡の結果が発生した場合に限って適用されますので、適用範囲は非常に狭くなります。

したがって、あおり運転行為自体を直接禁止して、十分な刑罰を設けて抑止力を高めることが必要だと考えます。

立法に向けた動きとしては、自民党が今年8月、道路交通法の改正や新規立法で、あおり運転行為を処罰する規定を新たに設ける方向で検討する意向を示して、警察庁も9月、同様の意向を示しています。

立法段階では、犯罪の構成要件をどのように設定すべきか、また処罰対象のあおり行為をどこまで明確に絞るのかが課題となります。

抽象的な文言にとどめれば、それだけ多くの危険な行為を取り締まることができそうにも思えますが、どのような行為が犯罪となり、それに対してどのような刑罰が科されるのかは、あらかじめ法律で定められていなければならず(罪刑法定主義)、明確性がないと罪刑法定主義にも反することになります。

このような理由から立法化には十分な検討が必要ですが、早急な法整備が必要だといえます。

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